ドアのノックはゆっくりと

札幌市の鍼灸院 快気堂鍼灸院白石で紡がれる物語

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鍼灸師が主人公の小説「鍼師おしゃあ」が傑作小説だった件。

   

鍼師が主人公の小説

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鍼灸師主人公小説は見つけたら必ず読むようにしています。

鍼灸師はマイナーな職業です。医者や刑事のように、頻繁に映像作品や小説の題材になることはありません。ただ、数は少ないですが、鍼灸師が主人公である小説は存在し、鍼灸師としては非常に気になるわけです。

本を開き、読み進めるまで、「鍼灸がどう扱われているんだろ?」「きちんと書かれているかな?」「鍼灸を中心にして、おもしろい話が書けるんだろうか?」などなど、鍼灸師主人公小説には独特の緊張感を感じます。

今回読んだ「鍼師おしゃあ」は、札幌にある鍼灸院「寿あき屋」の菅原先生がFacebookでお勧めしていて、知りました。

読書家の菅原先生のオススメなら間違いない!と、購入しました。

結果、「鍼師おしゃあ」は、今まで読んだ鍼灸師主人公小説の中では出色の出来でした。普通の小説としても、私の中でかなり上位にランク付けされる傑作だと思います。

特に素晴らしいと感じた点は次の5つです。

1,ドンドン引き込まれる文章の巧みさ

「鍼師おしゃあ」の大きな魅力の一つに、著者の河治和香さんの巧みな文章力があります。物語は江戸時代末期から明治初期にかけてのお話です。時代小説モノってちょっと取っつきにくい印象があるのですが、「鍼師おしゃあ」では、読み進めるごとにドンドンこの世界に引き込まれていってしまいます。

著者の描写が非常に巧みなのです。庶民達の息遣いや、町の喧騒、その時代が醸し出す空気の匂いなど、まるで、そこに自分がほうりこまれたかのように、文字を追うだけでリアルなシーンが脳裏に再現されていきます。

河治さんは、日本映画監督協会に勤務しているとのことなので、映像的な表現に優れているのかもしれません。

また、時代小説でありながら、いやにテンポ良く読み進めることができて、不思議でした。この感じ、何かに似ているなぁと思ったら、落語に似てるんです。

これは意識してのものらしく、その証拠に、巻末の解説を落語家の立川志らくさんが寄稿していて、落語みたいだと褒めています。

これだけ巧みに表現しながら、文体を落語的に変換できるなんて、河治和香さんの文章力、恐ろしいモノがあります。

2 ,江戸時代の粋な格好良さ

作者の河治和香さんは江戸風俗研究家でもあるそうで、江戸庶民に対する深い知識と愛情を感じます。

「粋」というものについて詳しくない私ですが、作者の深い知識と愛情によって描き出される江戸庶民の「粋」な雰囲気は、素直に「カッコいい」と感じ、いつのまにか魅了されていきます。

江戸末期は、天災が多発した時期でもあります。

大地震が何度も江戸の町を襲い、台風による高波で町は壊滅状態にもなります。家や、財産、家族を失ったにもかかわらず、江戸の庶民達は、シニカルに強がり、遊び心を忘れません。

震災後に、おしゃあはこんな歌を歌います。

大きな地震で 住居は潰れる 石垣崩れる 塀垣倒れる

宿六ふくれる 珍宝はむくれる 渋面工面の

やりくり からくり やれやれ

ちょぼくれちょぼくれ

何があっても、悲観的になってふさぎ込むなんてカッコ悪いとし、惨禍を馬鹿な歌にしてしまって笑い飛ばす、やせ我慢の美学。

「粋」を体現する存在としての「おしゃあ」は、なんて格好良いのでしょう。

3, 切ない恋愛

明治時代の厳格な家長制度の洗礼を受けていない、江戸時代の庶民文化。恋愛に関しても、ある程度おおらかな雰囲気があり、現代に通ずるモノがある気がします。

「粋」そのものといっていい主人公「おしゃあ」は、もちろん恋愛下手で、意地っ張り、体を売っていた過去もあり、惚れた相手に素直になれません。お互い求め合うものの、まっすぐな彼とはこじれることも多く、そこに歴史の大きな波がやってきて、、、。

粋な江戸人としての自分と、女としての自分の間で揺れる「おしゃあ」の心情が細やかに綴られています。

この辺の機微を表現するうまさは、女性ならではなのかもしれません。

大事な人がすぐ死ぬ、昨今の安易な物語よりも、上質で深い切なさが募ります。

4, 男子も大満足の歴史ロマン

恋愛の機微と聞くと、ちょっと苦手かな〜と感じる男子もいらっしゃると思いますが、「鍼師おしゃあ」では、そんな男子も大満足するであろう、歴史ロマンが詰め込まれています。

幕末から明治にかけて、歴史的事件が多発します。江戸の庶民「おしゃあ」の目を通して体験されるそれらの事件は、結末を知っていても、いや、知っているからこそ、刺激的です。

新聞やテレビで知った事件を、当事者に直接聞く感じに似ているでしょうか。現場のライブ感があります。

また、おしゃあは架空の人物ですが、周りを取り囲む人に、実在の人物が交じっています。江戸末期から明治にかけては、階級制が揺らいだ激動期です。庶民や、隅に追いやられていた武士達が、思いもよらぬ歴史的重要人物になることも多々ありました。おしゃあと縁を持った無名の人達が、歴史的な仕事をしていく様は、成り上がりモノとしても面白いです。

出てくる人物が、有名ではないけど、歴史的に重要な人物なのも、通っぽくて面白いです。

5,鍼灸の知識がすごい

鍼師おしゃあ」ですので、当然、鍼灸の場面も数多く出てきます。これが、とても高いレベルで描かれているのに驚きました。

おそらく、研究者特有の性質で、尋常ならざる取材が行われたのでしょう。江戸時代にどういう治療が行われ、どのように鍼灸が扱われていたか、鍼灸師としても大いに納得できる内容で、勉強にさえなります。

鍼灸師の肩書きを持つ某作者が書いた鍼灸小説よりも、鍼灸の描写は全然格上に感じます。鍼灸師の肩書きがあると、鍼灸に関して人よりも知識があると思い込み、碌な取材をしないため、自分の実力の範囲でしか鍼灸を語れなくなるのかもしれません。結果、出てくる鍼灸師の腕前は、専門学校卒業レベルになり、鍼灸師が読んでも消化不良な内容になる危険性があります。

それに比べて、「鍼師おしゃあ」には鍼の腕前一本で生きていく本物の鍼師の風格があります。

読み応えのある小説をお捜しの人にオススメ

このように、見所一杯の「鍼師おしゃあ」、鍼灸師主人公小説の最高峰だと思います。鍼灸師関係なしに、小説としても、かなりの傑作だと思います。

鍼灸について詳しければ、より楽しいかもしれませんが、鍼灸について知らなくても、十分楽しめると思います。むしろ、余計な知識がない方が、今では少なくなった本物の鍼灸の空気感に触れられてエキサイティングかもしれません。

鍼灸師以外の方の感想も是非聞いてみたいところです。

お盆も過ぎて、札幌は秋に向かいます。秋の読書に、「鍼師おしゃあ」いかがでしょうか。

個人的評価;10点満点中8点

映画化されたら嬉しいですね。映画的なシーンが多いので、面白くなりそうです。しかし、紹介の帯に女優の杏さんが写っているので、おしゃあのイメージに杏さんがどうしても浮かんでしまいます。

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