2018/12/13、私と整動協会の栗原誠代表、そして札幌鍼灸師チームは、帯広市にある十勝リハビリテーションセンターに集結していました。
鍼の研究に協力して頂いている慶応大学医学部特任教授の加藤容崇先生、そして帯広畜産大学の村田浩一郎准教授も一緒です。
私達は、これからはじめる一大プロジェクトの鍵となる、ある男達を待っていました。
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本物のJリーガーだ!
「本物のJリーガーだ!」
43歳にもなり、人生経験をそれなりに積んだはずの自分の脳裏に真っ先に浮かんだのは、小学生並みの感嘆でした。
いらっしゃったのは、A-bank Hokkaido代表であり、ミスターコンサドーレ札幌と呼ばれた男、曽田雄志さん、コンサドーレ札幌の現役ミッドフィルダー早坂良太選手、元形成外科医でありA-bankで曽田さんの片腕として活躍する塩谷隆太さん。
予定では、このメンバーでしたが、嬉しいビッグサプライズが!
元日本代表であり、現在ロアッソ熊本で活躍する巻誠一郎選手も急遽参加となったのです。
ジーコジャパン以来、サプライズ選出の代名詞となった巻選手ですが、自分が個人的にサプライズされるとは夢にも思いませんでした。
ブースタープロジェクト始動!!
なぜ、一流アスリートに帯広まで来て頂いたかというと、鍼灸とアスリートの新たな可能性を追求する新プロジェクトに協力して頂くためです。
鍼灸とアスリートというと、ケガの治療やコンディション調整が真っ先に頭に思い浮かびます。もちろん、鍼灸はそういった分野も得意ですが、今回は、それとは違った可能性へチャレンジします。
私達が研究している整動鍼という鍼治療の技術は
・局所から離れた箇所に鍼をする
・少ない本数で身体の動きを整える
・ミリ単位の検証で、鍼の刺激が身体のどこにどんな変化を起こすか把握している
という特徴があります。
この特徴を活かせば、鍼によってアスリートのパフォーマンスをアップできるはずなのです。
臨床の経験では、十分に効果を確認していて、あとは実践に近い形で実験するのみ。
どうせ実験するなら、一流アスリート!と言うことで、Jリーガーに参加して頂いたのです。
鍼の施術でアスリートの能力をブーストするプロジェクト、名付けて、ブースタープロジェクトがついに始動しました。
鍼灸のさらなる可能性へ、整動鍼のチャレンジ
整動鍼による鍼施術は、この一年、医師と共同で効果の研究がすすめられてきました。
効果が認められ、病院内で鍼施術が提供されるようになりました。
整動鍼は、ガンや難治性の神経痛、手術後に残る痛みなど、既存の医療では苦手とされていた症状、特に「痛みの緩和」に、効果が認められて来ました。
今回は、そのさらに先を狙います。
動けないから痛い
整動鍼の基本となる考えは「動けないから痛い」です。
一般的な感覚では「痛いから動けない」と感じると思います。
しかし、発想を転換して「動けないから痛い」と考えて理論を組み立てると、驚く程、うまくいきます。科学的な検証でも突出した再現性が確認されています。
この整動鍼の理屈から言えば、痛みをとるのも、スポーツのパフォーマンスをアップさせるのも、動きを整えることは共通するので、それほどかけ離れた事ではないと言えます。
また、整動鍼は局所に施術をしません。
「鍼をすると、ハリをされたところがユルユルになって、パフォーマンスが落ちるので試合前日にはできない。」と考えるアスリートは少なくありません。早坂選手も同じ事を仰っていました。
整動鍼は、緊張を緩めたい箇所と別の箇所に鍼をします。離れた部分に緊張の原因があるからです。結果、狙った部分の緊張は緩みますが、緩みすぎるということはほとんどありません。
こういった特徴から、整動鍼がアスリートのパフォーマンスをアップさせ、人類の可能性をさらに拡張できるのでは無いかと考え、プロジェクトが始動したのです。
曽田さんの魅力がつなぐ可能性
しかし、この大胆な試みに、なぜ、一流アスリートが協力してくれるのでしょうか。
臨床での経験上、パフォーマンスアップは間違いないと確信していますが、科学的なデータがあるわけではありません。
ここでは、曽田さんが大きな役割を果たしています。
曽田さんは大学時代、日本代表に選抜されたり、コンサドーレのキャプテンを務めるなど、Jリーガーとして大活躍された方ですが、現役引退後、人材育成をメインとするプロジェクトに関わっています。
曽田さんは、アスリートには光り輝く価値があるのに、トレーニングや試合で忙しすぎて本人が気付いていない事が多いと言います。
例えば、競技を離れたとしても、羽生結弦くんが被災地を訪れてお話ししたり、子供達にスケート教室をするだけでも、大きな社会貢献となります。一流アスリートにはそれだけの価値があるのに、現役時代は気付けません。
曽田さんは、現役アスリートに、社会貢献に参加できる機会を紹介し、どうしたらそこで上手く出来るかをアドバイスする仕事をしています。
この試みは、多くのアスリートや有力者の心を掴み、全国的に拡大し続けています。
現在、曽田さんを中心に、日本中のアスリートが繋がっているような状況になっています。
その曽田さんが、整動鍼の技術を世界に役立てたいという私達の想いに賛同してくれて、今回の協力に繋がりました。
曽田さんは、ムチャクチャ頭が良くて言葉を選んで話すので、一見ぶっきらぼうに見えますが、人に愛を掛け値無しに与える人です。
その姿勢が、多くの人の心を掴み、無数の協力者を生み出しています。
自分も、曽田さんに接すると、全てを投げ出してついて行きたくなる、不思議な感覚に襲われます。曽田さんといたら、良いことありそうだし、楽しそうだと感じます。
その曽田さんの頼みがあったからこそ、現役Jリーガーの協力が得られたのです。
理学療法士さんの協力
Jリーガー達と塩谷さんは、軽いウオーミングアップの後、リハセンの理学療法士さん達の協力の下、筋力や柔軟性など、様々な数値を測定しました。
実は、理学療法士さんと鍼灸師って、仲の悪いイメージが一般的にありあます。
同じような症状を扱うことが多いんですが、アプローチが全然違うので理解を得られない所があるというか。
しかし、協力すれば大きな仕事が出来るはずと、個人的には考えていて、今回は、短い時間でしたが、一緒に実験が出来て嬉しかったです。
いよいよ鍼の出番です。
数値を測定後、MEGで脳の状態を計測しました。
そして、いよいよ鍼の出番です。
鍼をするのは、我らが栗原代表。
鍼をしてすぐにパフォーマンスをアップさせるという、一般的な鍼灸師にとっては難しい課題に挑戦です。
詳しくは公開できませんが、いつも臨床で使うツボが使われていました。
鍼をした後、再びMEGで脳を計測します。
その後、柔軟性と筋力をもう一度測定して終了です。
被験者の皆さんは、決して手を抜くこと無く、全力で応えてくれました。
巻選手はJRの時間が迫る中、ギリギリまで付き合っていただきました。
本当に感謝です。
Jリーガーがいる風景
いつも私は、困っている患者さんのために一生懸命になっているわけですが、今回は、元々高いフィジカルエリートの能力をさらに上げるということで、目の前の光景が別世界のように感じていました。
夢心地というか、夢うつつというか。
実験の合間に、曽田さんの腰と股関節の施術、実験終了後に早坂選手の大臀筋の緊張を緩和する施術をさせて頂きました。
早坂選手から鍼治療と身体の関係について、何度も質問されました。
質問の鋭さから、早坂選手の鍼治療や身体への深い理解を感じます。
身体が資本である、一流のアスリートにとっては当然なのかも知れません。
ちなみに、巻選手は「ケアとかしないけど、ケガもしない」と、これまた全く別の世界観をお持ちでした。
巻選手と言えば、私はイビチャ・オシムが大好きなので、オシムの話を聞きたかったのですが、残念ながら時間がありませんでした。
まとめ
鍼の施術でアスリートの能力を拡張するというブースタープロジェクトがついに始動しました。
初の試みなので、様々な課題も見えてきています。
ともあれ、曽田さんのおかげで一流アスリートのデータを採ることが出来たのは、今後、大きな意味を持ってくると思います。
「また何人か連れてくるよ」と曽田さんの頼もしい言葉も頂きました。
整動協会は、鍼灸師が医療人として活躍できる環境の構築を目指すと共に、このような鍼による施術の可能性も追求していきます。
一人でも多くの鍼灸師が、一緒にワクワクして頂けたらと思ってます。
おまけ
曽田さんとふくらはぎを比べてみました。本人は絶望的な気持ちになりましたが、どっちが谷地で、どっちが曽田さんか分かるかな?