東洋医学への関心が高まっています。
病院で漢方薬を処方されることが、いつの間にか当たり前のようになっています。
m3.comの調査によると、医師の81.2%が漢方を処方しているとのこと。
背景には、西洋医学の物凄い発展があります。
西洋医学の研究は遺伝子レベル、分子レベルに達し、多くのことが分かってきました。その結果、西洋医学的アプローチが苦手な領域もはっきりしてきたのです。
西洋医学の苦手な領域を埋め合わせるものとして、東洋医学がクローズアップされてきています。
テレビや雑誌で取り上げられることも多くなった東洋医学。しかし、興味を持って学ぼうとすると、非常にわかりにくく感じます。
実は、わかりにくさの背景には、東洋と西洋の世界観の違いがあります。
東洋医学を上手に活用していただくために、今回は、東洋と西洋の世界観の違いについて紹介していきたいと思います。
Contents
鍼灸師であり医学研究者である私の悩み
私は鍼灸師です。と同時に、西洋医学の世界にもどっぷりハマっていた時期もあり、国立大学医学部で修士を取得しています(ガンの遺伝子について研究していました)。
結局、鍼灸師の道を選んでいるので東洋医学大好きだと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
鍼灸の臨床は好きなんですが、東洋医学は、本当に「こいつ何なの?」と思う事も少なくありません。
正直、西洋医学の方が理解しやすいと感じます。
東洋医学・西洋医学、それぞれのアプローチ
東洋医学の独特なアプローチを説明するために、例として、便秘について考えてみます。
西洋医学であれば、機能性の便秘なのか、器質性の便秘なのか、詳細に分類していくことで診断名がつき、それに対応した薬剤や治療方法が決まっていきます。
東洋医学にも分類するためのいくつかの指標があります。
東洋医学の指標例
・陰陽、五行
・気、血、津液
・五臓六腑
他にも色々ありますが、こういった指標をもとに東洋医学では症状を診ていきます。
東洋医学で良くある風景
では、指標を元に、どう治療を組み立てていくのか。達人と凡人との会話から、東洋医学でよくある風景を見ていきましょう。
名詞の世界と動詞の世界
さて、次の絵を見てください。牛とのペアを作るならAとBどちらを選びますか?
アメリカの社会心理学者リチャード・E・スニベットの有名な実験です。
この質問をアメリカと中国の子供にしたところ、アメリカ人の子供の多くが牛とニワトリの組み合わせを選んだのに対し、中国人の子供は牛と草をペアにすることが多かったのです。
牛とニワトリを選ぶのは、分類学上の動物だから。
牛と草を選ぶのは、牛は草を食べるけど、ニワトリは草を食べないから。つまり、分類よりも関係が重要視されているのです。
ニスベットは、こういった実験を繰り返し、西洋人が「分類学的規則」を素早く見つける傾向を発見しました。それに対して、東洋人は、カテゴリーに分類するのが苦手なかわりに、部分と全体の関係や意味の共通性に興味を持つことを明らかにしました。
カテゴリーは名詞によって表されます。人やものとの関係は、動詞によって表現されます。
つまり、西洋人は世界を「名詞」で考え、東洋人は世界を「動詞」で把握しているとも言えます。
東洋医学との付き合い方
西洋医学は名前(名詞)が中心です。いかに正確に診断名を付けるかが治療の最重要ポイントです。
一方、東洋医学にとって、熱秘、気秘などの診断名に大きな意味は無いのです。
体全体の中で胃腸の働きが弱っている、いつもと比べて気の動きが滞っている、他の五臓と比べて肝の働きが荒ぶっている、など他との関係性が全てであり、関係性のバランスを取り戻すのが東洋医学の治療なのです。
東洋医学を利用する際は、この関係性に注目すると西洋医学と違った利点を最大限に活かせます。
東洋医学を上手く利用するポイント
便秘だからこの漢方!という捉え方ではなく、同じ便秘でも、いつもより熱っぽくてお腹に張りがあるからこの治療法、便秘なのに食べても食べても満腹にならず、なぜか手足が冷えるからこの治療法が選ばれている、ということに注目しましょう。
経過も、便秘などの症状が治るかどうかではなく、熱っぽさが薄れてきているかとか、バカみたいな食欲がおさまってきているとか、体のバランスの変化を捉えることを大事にしてください。変化していれば、効果があるということなので、時間をかければ目的だった便秘などの症状が改善する可能性があります。
ただし、二ヶ月続けても変化がないようであれば、見たてが間違っている可能性があります。処方や治療法を見直したり、相談する相手を変えてみるのも手だと思います。
まとめ
西洋医学は分類・診断が拠り所です。
東洋医学は関係性のバランス調整がツボです。
それぞれに長所があり、苦手な分野があります。東洋医学の見たてや効果を、西洋医学的に捉えていては、東洋医学の本来の力を活かすことが出来ません。
両者の特徴をしっかりと把握して、有効に活用していきましょう!