北斗病院での一年間を振り返ることで、鍼灸師と病院のコラボレーションが生み出したものを紹介する企画代三弾です。
-
鍼灸師と病院のコラボレーションが生み出すもの ②
北斗病院との共同研究が始まって1年。これまでの歩みを振り返ることで、鍼灸師の未来を創り出すプロジェクトを紹介する企画の第2回目です。 研究が進み、医師を初めとする病院関係者に、鍼治療の医療としての有用 ...
続きを見る
鍼灸の研究が順調に進む中で、鍼灸の社会的信頼度が不当に低いと感じる医師や医療関係者が出てきました。
医師と一緒にその原因について考察しました。すると、次のような鍼灸業界の問題点が見えてきました。
- エビデンスがない
- 施術が統一されていない
- 鍼灸を提供する場がなく、経済的に不遇な鍼灸師が多い
これらは、医師に言われるまでもなく、長年にわたって鍼灸業界が悩んできた問題ですが、医師の視点が加わることで、新たな突破口が見えてきました。
Contents
エビデンスを確立せよ
まず、エビデンスが乏しいことに関しては、現在の研究を進めていくことで道が開けていきます。
従来、コントロール群との有意差が出ない問題に悩まされてきた鍼治療研究ですが、前回お伝えしたとおり、ミリ単位のツボの位置にこだわり、効果を詳細に検証してきた整動鍼のアプローチであれば、乗り越えられる可能性が十分にあります。
詳細は論文発表まで控えますが、現在得られているデータは、 脳研究者である鴫原良仁先生が驚く程の数値を示しています。
どんなに歴史的な結果でも、論文一本でエビデンス確立できるわけではありません。ただ、論文によってエビデンス確立への道が開けます。
現状、鍼の研究というとキワモノ的に見られていますが、論文が評価されれば、多くの研究者から協力を得られる可能性が高まってきます。
標準治療への道。
施術が統一されていない問題に関しても、研究が重要な鍵になります。
我々が行なっている研究の当面の目標は、鍼治療の効果をMEG(脳磁場)で数値化することです。
鍼治療の効果を数値化できれば、鍼灸の数ある施術方法の中で、最良の効果があるものをはっきりとさせることができます。
整動鍼は非常に高い値を出してはいますが、一つのやり方にこだわることなく、多くの会派の方達と協力してデータを積み上げていきたいと考えています。
積み上げたデータから、鍼灸の標準治療を構築していく計画です。
医療として最低限のラインをクリアする
「鍼灸はそんな浅いものじゃない。数値化されない効果こそ重要だ」とのご批判もあると思います。
私たちの目的は、数値化されない効果を否定することではありません。
症状によっては、薬やリハビリや手術と比べて、鍼灸の方が効果的であることを、科学的に証明したいのです。その中で、どのやり方が患者さんのために最良なのかを明らかにしたいのです。
そうしてはじめて、鍼灸は、医療として最低限のラインをクリアすることができます。
数値化できない部分に関しては、その後で探求しても良いのではないでしょうか。
教育システムの革新
標準治療ができても、鍼灸師によって治療の質があまりにもバラバラでは、意味がありません。
幸い、整動鍼の技術は、鍼灸師であれば比較的簡単に再現できるようにデザインされています。
これを利用して、トレーニングすれば、一定の基準を満たす成果が誰でも出せるようになる育成システムを構築できると考えています。
研修医と指導医の仕組みをヒントに
トレーニングの場は、病院を使います。成果を確実に出せる鍼灸師が指導鍼灸師として、研修鍼灸師と一緒に臨床に入り、直接指導していく体制を作っていきます。
指導医と研修医の仕組みを参考にしています。
医師は、鍼灸師は鍼灸学校卒業後、すぐに臨床に出たり、1週間足らずのトレーニングで現場に出されることがあると知ると、「信じられない!」と目を丸くします。
医師から研修鍼灸師制度の提案が出るのは自然な流れです。
ちなみに、プロトタイプはすでに実用化されていて、北海道と埼玉県で大きな成果を上げています。
鍼灸師の活躍の場をつくる
鍼灸を提供できる場がない問題に対しても、病院を最大限利用します。
まず、病院で鍼灸を提供します。鍼灸師の雇用先として病院という選択枝が増えます。
鍼灸の年間受領率は4%でしたが、病院は1日の受領率が6%です。単純計算して365倍以上の患者さんが来ます。
医師が、鍼灸の適用と判断した患者さんに、病院内で鍼灸を受けてもらいます。
病院で長時間待たされた経験が、あなたにもあると思います。病院の処理能力を越えた患者さんが来るからです。
同様に、病院内の鍼灸部門も患者さんで一杯になってしまうでしょう。(北斗病院鍼治療センターでは、実際、そうなっています。)
医師が鍼灸院へ紹介するのを当たり前に
あふれ出てしまった患者さんの中で、施術を継続した方が良い患者さんに関しては、技量が保証された鍼灸院に医師が紹介するシステムを作ります。
医師の保証があると、患者さんは安心して鍼灸院を利用します。紹介されたうち、1割でも来院すれば、単純計算で今までの36倍もの患者さんが、あなたの鍼灸院を利用するのです。
新患数が36倍になったら、あなたの鍼灸院は対応できるでしょうか?
マーケティング競争からの脱却
大量の情報が溢れ返り、口コミさえお金で買える現在、広告やマーケティング力が強いところに患者さんが集中してしまっています。
これは、鍼灸師にとっても、患者さんにとっても、健全な状態ではありません。
医学的に査定された技量によって患者さんが紹介されるシステムが確立されれば、鍼灸師、医師、そして患者さん全てにメリットがあります。
鍼灸師は、余計なことに頭を悩ます必要なく、技量を磨き、結果を出すことに集中できます。
真面目に腕を磨き、成果を出せる鍼灸師が、経済的にも安定していくのです。
活躍の場は病院外にも
病院の他にも、鍼灸の技術を必要としている場は数多くあります。
かけはしのような老健施設、あるいは、職員さんの健康を気遣う企業、スポーツ関連など。そこに技量が保証された鍼灸師を派遣することも計画しています。
ただの派遣では無く、ベテランと見習いを組み合わせて派遣することで、研修の場としての役割を兼ねさせます。
医師や病院の広い繋がりやブランド力を活かすことで、派遣先の開拓は、鍼灸師単独でやるよりも容易なはずです。
日本鍼治療標準化学会
鍼の標準治療を確立し、鍼灸師の研究、研修、活躍の場を作り出す。この一大プロジェクトをプロジェクトMIRAIと名付けました。
これだけ多岐に渡るプロジェクトになると、運用するための組織が必要になってきます。
そこで、加藤容崇先生(慶応大学医学部特任助教・病理医)、栗原誠先生(整動協会代表・鍼灸師)、そして私、谷地一博(整動協会副代表・鍼灸師)が代表を務める形で、日本鍼治療標準化学会(JASTAC)を設立しました。
患者さんのために最良の鍼治療を提供したい。それがJASTACの中心にあります。協力していただける鍼灸師には、活躍の場と報酬を提供したいと考えています。
臨床での成果はもちろん、研究や研修でも評価され、それで生活が保障される、医師のような仕組みを作ることが目標です。
優秀な鍼灸師が、経済上の不安無く、研究や研修に専念できれば、改革のスピードはさらに増していくでしょう。
プロジェクトMIRAIは実現している
自分で書いていて、まるで絵空事のように感じますが、プロジェクトMIRAIはすでに小さな規模ですが回りはじめています。
小さな規模であるにもかかわらず、大きなインパクトを生み出しています。
また、プロジェクトMIRAIという全体像と、JASTACという容れ物が出来た事で、さらに多くの協力が得られ、新しいチャレンジも始まっています。
次回は、既に動き出した鍼灸による医療改革の萌芽についてお伝えする予定です。
続く
-
鍼灸師と病院のコラボレーションが生み出すもの ④
北斗病院での一年間を振り返ることで、鍼灸師と病院のコラボレーションがもたらす未来を紹介する企画代4弾です。 研究からスタートしたコラボレーションは、鍼灸による医療改革を目指すプロジェクトMIRAIへと ...
続きを見る