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突発性難聴のステロイド治療に新たなエビデンス──高用量は本当に必要か?【HODOKORT試験解説】

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HODOKORT試験

突発性難聴のステロイド治療に新たなエビデンス
──高用量は本当に必要か?

 更新 | 執筆:谷地一博(快気堂鍼灸院白石 院長・鍼灸師)

2024年に発表された大規模臨床試験で、突発性難聴の治療において「高用量ステロイド」が「標準用量」より優れているとは言えないことが明らかになりました。

突発性難聴とステロイド治療のこれまで

突発性難聴(突発性感音難聴)は、ある日突然、片方の耳(まれに両耳)の聞こえが悪くなる病気です。日本では年間約3万〜4万人が発症すると推定され、決してまれな病気ではありません。

治療の中心となっているのがステロイド(副腎皮質ホルモン)です。炎症を抑え、内耳のむくみを改善する効果が期待されており、50年以上にわたって世界中で使われてきました。

ただし、実は「ステロイドがどのくらい効くのか」「どの量が最適なのか」について、質の高い科学的根拠(エビデンス)は十分ではありませんでした。日本でも施設によって使用する量や期間に差があるのが現状です。

そうした中、2024年1月、この疑問に正面から答えようとした大規模な臨床試験の結果が、世界的に権威のある医学誌に発表されました。

HODOKORT試験──何がわかったのか

論文名
High-Dose Glucocorticoids for the Treatment of Sudden Hearing Loss

掲載誌
NEJM Evidence(2024年1月)

研究の種類
ランダム化比較試験(RCT)── 治療効果を調べるうえで最も信頼性の高い研究方法です

規模
ドイツの46医療機関、325名の患者さん

どんな研究?

この研究では、突発性難聴を発症してから7日以内の患者さん325名を、次の3つのグループにランダムに振り分けました。

グループ1:高用量の点滴ステロイド(プレドニゾロン250mg/日を5日間)
グループ2:高用量の飲み薬ステロイド(デキサメタゾン40mg/日を5日間)
グループ3:標準用量の飲み薬ステロイド(プレドニゾロン60mg/日+段階的に減量)

どのグループに入るかは患者さんにも医師にもわからない「三重盲検」という厳密な方法で行われ、結果の信頼性が高い研究です。

結果はどうだった?

高用量ステロイドに、標準用量を上回る効果は認められませんでした。

30日後の聴力の回復は、3つのグループで統計的に差がありませんでした。むしろ、標準用量のグループが最も良い傾向(約41dBの改善)でした。

さらに注目すべき点がいくつかあります。

副作用は高用量で多かった──高用量を使った2グループでは、血糖上昇や睡眠障害などの副作用がより多く報告されました。

言葉の聞き取りや耳鳴りも改善しなかった──語音弁別能(言葉をどのくらい正確に聞き取れるか)や耳鳴りについても、高用量の優位性は見られませんでした。

標準用量でも完全には治らない方が多い──標準用量グループでも、30日後に完全に聴力が回復した方は約40%にとどまりました。

この結果は患者さんにとって何を意味するか

「量を増やせばもっと効く」わけではない

突発性難聴と診断されると、「できるだけ強い治療をしてほしい」と思うのは自然なことです。しかし今回の研究は、ステロイドの量を増やしても聴力の回復が良くなるわけではなく、副作用のリスクが高まることを示しました。

標準用量(プレドニゾロン60mg/日+段階的な減量)が、現時点では最もバランスの取れた治療と考えられます。

ステロイド治療そのものへの問い

この研究にはプラセボ(偽薬)グループが設定されていません。そのため、「ステロイド治療を行った場合」と「何もしなかった場合」の比較はできていません。突発性難聴は自然に回復する場合もあるため、ステロイド治療そのものがどの程度有効かについては、今後さらなる検証が必要です。

ただし、だからといって「ステロイドは意味がない」ということではありません。現時点では、早期のステロイド投与が標準治療として推奨されています。

治療は早いほうがいい──これは変わらない

今回の研究でも、発症から治療開始までの時間が短いほど回復が良い傾向が確認されています。突然聞こえが悪くなった場合は、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診することが大切です。

今後の治療はどう変わる?

ステロイド治療の限界が見えてきた中で、新しい治療法の研究が進んでいます。

たとえば、内耳の感覚細胞(有毛細胞)を保護・修復する新薬「AC102」の臨床試験(第2相)が欧州で進行中です。これは鼓膜を通じて1回注入するだけの治療で、従来のステロイドとは異なるメカニズムで効果を発揮します。結果は2026年頃に判明する見込みです。

また、聴力が回復しなかった場合の鼓室内ステロイド注入(耳の中に直接ステロイドを注入する方法)も、サルベージ療法として引き続き検討されています。

突発性難聴の治療は「ステロイド一択」から、より個別化された治療へと変わっていく過渡期にあります。

よくあるご質問

Q. 突発性難聴のステロイド治療は高用量のほうが効きますか?

A. 今回の大規模臨床試験では、高用量ステロイドが標準用量より聴力回復に優れているという結果は得られませんでした。むしろ、副作用が増える傾向が示されています。現時点では標準用量での治療が推奨されます。

Q. 突発性難聴でステロイドを使えばどのくらい治りますか?

A. 個人差が大きいですが、HODOKORT試験では標準用量のステロイド治療を受けた方でも、30日後に完全に回復した方は約40%でした。部分的な改善を含めるともう少し多くなりますが、残念ながら全員が完全に回復するわけではありません。回復の可能性を高めるためにも、早期受診が重要です。

Q. 突発性難聴の治療で新しい薬はありますか?

A. 内耳の感覚細胞を保護・再生する新薬(AC102)の臨床試験が欧州で進行中です。従来のステロイドとは異なるメカニズムで、鼓膜を通じた1回の注入で効果を発揮する可能性があります。結果は2026年頃に判明する見込みです。

まとめ

2024年に発表されたHODOKORT試験は、突発性難聴に対する高用量ステロイドが標準用量より優れていないことを、信頼性の高い方法で示しました。副作用を考えると、高用量をルーチンで使う根拠はありません。

一方で、標準用量のステロイド治療でも完全回復に至らない方が多いことも改めて示され、新しい治療法の開発が急がれています。

突然の聞こえの変化に気づいたら、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診してください。早期治療が回復の可能性を最も高める方法であることは、今も変わりありません。

出典

Plontke SK, Meisner C, Agrawal Y, et al. High-Dose Glucocorticoids for the Treatment of Sudden Hearing Loss. NEJM Evidence. 2024;3(1). doi:10.1056/EVIDoa2300172

免責事項:この記事は最新の医学論文をもとに一般の方向けにわかりやすく解説したものであり、個別の診断・治療を行うものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。

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