札幌市・白石区の鍼灸院|医師との共同研究で磨かれた、やさしい鍼(はり)の専門家

耳鳴りの治療は組み合わせが効果的?──461名の国際RCTが示すエビデンス

掲載誌:Nature Communications(2025年11月)
論文タイプ:国際多施設ランダム化比較試験(RCT)
対象:慢性耳鳴り患者 461名(欧州5施設)
著者:Schoisswohl S, Basso L, Simoes J et al.

「耳鳴りの治療はどの方法が一番効くのか?」「複数の治療を組み合わせたほうが良いのか?」──多くの患者さんが抱えるこの疑問に、世界で初めて大規模な臨床試験で答えを出した画期的な研究が、2025年にNature Communicationsに発表されました。

ヨーロッパ4カ国・5つの医療機関で461名の慢性耳鳴り患者さんを対象に行われたこの試験(UNITI試験)は、現在広く行われている4つの治療法を単独または組み合わせで比較した、世界最大級の耳鳴り治療RCTです。

UNITI試験──どんな研究か

UNITI(Unification of Treatments and Interventions for Tinnitus Patients)試験は、EU(欧州連合)が資金を提供した大規模な国際共同研究です。ベルギー(ルーヴェン)、ドイツ(ベルリン、レーゲンスブルク)、ギリシャ(アテネ)、スペイン(グラナダ)の5つの医療施設で実施されました。

674名の患者さんがスクリーニングを受け、そのうち基準を満たした461名(女性190名)が参加しました。対象は18〜80歳で、3カ月以上続く慢性耳鳴りがあり、少なくとも軽度以上の耳鳴りによる生活への支障がある方です。

参加者は、聴力レベルと苦痛度に基づいて層別化された上で、単独治療群(230名)組み合わせ治療群(231名)にランダムに割り付けられました。

比較された4つの治療法

1. 認知行動療法(CBT)

訓練を受けた心理士が行うグループセッション。週1回(1.5〜2時間)×12週間。耳鳴りに対する恐怖や回避行動を和らげる曝露療法をベースとしたプログラムです。

2. 補聴器

耳かけ型補聴器(Signia Pure 312 7X)を両耳に装用。ノイズ関連の信号処理はすべてオフにし、純粋に聴力補正のみを行う設定です。

3. 構造化カウンセリング(アプリ配信)

専用アプリを通じて毎日自分で行う、体系的なカウンセリングプログラムです。耳鳴りに対する正しい知識や対処法を段階的に学びます。

4. 音響療法(アプリ配信)

専用アプリで毎日行う音響療法。耳鳴りの音をマスキングしたり、脳の音の処理を変化させることを目的とした治療法です。

これらの4つの治療法を、単独で行う4パターンと、2つを組み合わせる6パターンの計10通りの治療群に分けて、12週間にわたり効果を比較しました。

主な結果──組み合わせは単独より効くのか

治療効果は、国際的に広く使われているTHI(Tinnitus Handicap Inventory:耳鳴り障害度質問票)のスコアで評価されました。スコアが下がるほど、耳鳴りの苦痛が改善したことを意味します。

12週間後の結果

単独治療群:THIスコア 平均 −11.7ポイント改善
組み合わせ治療群:THIスコア 平均 −14.9ポイント改善
群間差:統計的に有意(P=0.034)

組み合わせ治療は、単独治療よりも統計的に有意に効果が高いという結果が出ました。組み合わせ群では3.2ポイント多く改善しています。

もう一つの重要な発見──「代償効果」

この研究で特に注目すべきは、組み合わせの効果の「しくみ」です。

研究者は、組み合わせ治療では相乗効果(1+1=3)ではなく、代償効果が働いていることを発見しました。つまり、組み合わせた2つの治療のうち、より効果の高い治療法が主な改善を担い、効果の低い治療法の分を補っているという構図です。

特に、認知行動療法(CBT)と補聴器は単独でも大きな効果(大きな効果量)を示しており、他の治療と組み合わせてもそれ以上の上乗せ効果は限定的でした。

この発見の意味

すべての治療を「足し算」で組み合わせれば良いわけではありません。効果の高い治療法を軸に据え、患者さんの状態に合わせて適切に組み合わせることが重要です。

この結果は患者さんにとって何を意味するか

この研究から、耳鳴り治療について以下のことが科学的に示されました。

1. すべての治療群で改善が認められた

10通りすべての治療群でTHIスコアが改善しました。「耳鳴りは治療しても良くならない」というイメージがありますが、適切な治療により改善が期待できます。

2. 複数のアプローチを組み合わせることに意義がある

組み合わせ治療群は単独群よりも有意に改善度が高く、複数のアプローチを取り入れることの有効性が確認されました。

3. 鍼治療との組み合わせにも期待

この試験では鍼治療は比較対象に含まれていませんが、「効果の高い治療を軸に、他の治療を組み合わせると改善度が上がる」という原則は、鍼治療を含む多角的アプローチの意義を支持するものです。耳鼻科の標準治療に加えて鍼治療を併用するという当院のアプローチは、この研究が示す方向性と一致しています。

研究の限界について

科学的な正確性のため、この研究の限界点もお伝えします。

10群に分けたため、各群の人数が比較的少なく、個々の組み合わせの優劣を断言するには検出力が不十分です。

治療期間は12週間であり、長期的な効果の持続性については検証されていません。

認知行動療法は盲検化が難しく、プラセボ効果の影響を完全に排除できていない可能性があります。

鍼治療は比較対象に含まれておらず、鍼治療との組み合わせについては直接的なエビデンスではありません。

よくあるご質問

Q. 耳鳴りは本当に治療で改善するのですか?

この試験では、10通りすべての治療群でTHIスコアが改善しています。耳鳴りの完全な消失は難しい場合がありますが、適切な治療により苦痛度が大きく軽減されることが科学的に示されています。

Q. どの治療法が最も効果的ですか?

この研究では、認知行動療法と補聴器が単独でも大きな効果を示しました。ただし、最も効果的な治療は患者さんの状態により異なります。大切なのは、一つの方法に頼るのではなく、複数のアプローチを組み合わせることです。

Q. 鍼治療は耳鳴りに効果がありますか?

この試験では鍼治療は比較対象に含まれていませんが、別の研究(2,456名を対象としたメタ分析)では鍼治療の有効性が報告されています。当院では、耳鼻科の標準治療と鍼治療を併用する多角的なアプローチをおすすめしています。

まとめ

世界最大級の耳鳴り治療RCTであるUNITI試験は、複数の治療を組み合わせることで、単独治療よりも有意に高い改善が得られることを示しました。同時に、やみくもに治療を重ねるのではなく、効果の高い治療法を軸に据えた戦略的な組み合わせが重要であることも明らかになりました。当院では、エビデンスに基づいた鍼治療を含む多角的なアプローチで、耳鳴りの改善をサポートしています。

出典:Schoisswohl S, Basso L, Simoes J et al. Single versus combination treatment in tinnitus: an international, multicentre, parallel-arm, superiority, randomised controlled trial. Nature Communications. 2025;16:10510. doi:10.1038/s41467-025-66165-1

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