実はシンプル?自律神経失調症の正体とは。
自律神経失調症に振り回されないために
鍼灸院に来院される方で、自律神経の不調を訴える患者さんは少なくありません。
医師に自律神経の不調と診断された方、ネットやテレビの情報を元に自分で判断された方、自分が自律神経の不調かもしれないと考え始めるきっかけは様々です。
では、実際に自律神経失調症とは、いったいどんな病なのでしょうか。
「自律神経失調症」に関する情報の多くは、誤解を招きやすい伝えられ方をしています。
不安や恐怖は自律神経を乱す最大の要因になりますが、現在、自律神経に関して必要以上に不安や恐怖を煽る情報が溢れています。
余計な不安に振り回されないためにも、自律神経失調症についてきちんと知っておくことが重要です。
今回は、自律神経失調症に対する誤解しやすい点に注意を払いつつ、その意外な正体に迫っていきたいと思います。
自律神経失調症とは何かを調べてみよう
国際的に高い信頼性を獲得している、医療者向け医学事典・MSDマニュアル(オンライン版)を見てみましょう。
しかし、なぜか「自律神経失調症」という病名は見つかりません。
近いものとして「純粋自律神経不全症」という項目が見つかります。
これの主な症状は起立性低血圧です。
その他、汗の量が減る、暑さに耐えられなくなる、尿が出ない、膀胱が痙攣する(失禁の原因になる)、勃起障害、便失禁または便秘、瞳孔異常、などの自律神経症状が見られることもある、とのこと。
診断方法は、除外診断。つまり、色々調べて検討したけど、どの病気にも当てはまらないときにこの病名がつけられます。
どうでしょう。みなさんが考える「自律神経失調症」のイメージに近いでしょうか?
なんだか、ちょっとニュアンスが違う気もします。
MSDマニュアルは国際的な医療情報の紹介なので、日本とは事情が違う部分もあります。ニュアンスが違うのは、そのせいなのでしょうか。
実は、そうではないのです。
日本で使われている「自律神経失調症」という言葉は、MSDマニュアル掲載の「純粋自律神経不全症」とは違うものを表しているのです。
まず、知っておいて頂きたいのは、「自律神経失調症」という正式な病名は無いと言うことです。
「あれ?、病院でお医者さんに、そう言われたけど?」という方もいらっしゃると思います。
そこには、複雑な大人の事情があるのです。
それを理解するためにも、まず、自律神経について知っておく必要がありそうです。
自律神経とは
神経とは、生きていく活動に関わる情報を、体の中で伝達する働きを持つものです。
神経は大きく二つに分けられます。
指を曲げる、膝を伸ばす、腰をかがめるなど、意識できる活動に関わる神経を体性神経と言います。
一方、血圧の調整や、発汗、脈拍、胃腸の働きなど、無意識に行われる活動に関わっている神経を自律神経といいます。
このような説明が、一般的にはされています。
しかし、この説明には重要な視点が抜けています。それが誤解を招く原因にもなっています。
抜け落ちているのは、サイズの問題です。
自律神経、サイズの問題
人間の生命活動で、意識できる部分は非常に限られています。無意識で調整されている心臓の拍動や、血中酸素濃度の調整などが、意識しないと出来ないとしたら、眠っただけで死んでしまいます。あるいは、常に意識していなければならないので、他に何も出来ないでしょう。
無意識は、意識では到底不可能な量の処理を常に行っています。
情報量で比べると、無意識で行われている活動は、意識できるものの数千倍あると言われています。
体性神経、自律神経と、教科書では二つ並べて書かれているので気付きにくいのですが、生きていくための活動の大部分は自律神経が関わっています。体性神経は、ほんの一部なのです。
活動範囲のサイズが全く違うのです。
あなた=自律神経?
最近の脳の研究で、意識の大部分は、無意識の生命活動を言語に翻訳したモノに過ぎない事がわかってきました。
と言うことは、意思や感情を含めて、ほぼ全ての生命活動が、自律神経の関わる無意識の働きによるものであることになります。
つまり、「自律神経の働き=あなたが生きていること」と言い換えることもできます。
人間性というものを、見た目では無く生き方で評価するならば、「あなた=自律神経」と言えるかも知れません。
自律神経失調症の正体
ここまで見てきたように「自律神経=あなたの生きるほぼ全て」です。
ということは、「自律神経失調症」というのは、「あなた、調子悪いところありますね。(原因は別にして)」と言っているのと変わりありません。
風邪だって、自律神経の不調があります。ギックリ腰でも、虫歯でも、バセドウ病でも、食中毒でも、恋の病でも、自律神経の不調が発生しています。
体の不調があれば、なんだって自律神経の失調だと言えるのです。
医師が、「あなた、自律神経失調症ですね」と言うのは、何らかの症状は確かにあるけれど、検査で何も異常が出なかった場合です。
医師は、「わからない」と言えない職業です。「わからない」では、患者さんが納得しないからです。診断名をつけられて、初めて安心する患者さんもいます(自律神経と聞いて不安になる方も多いですが、、、)。
そういった場合に使える便利な診断名がいくつかあり、その代表が「自律神経失調症」です。
わからないものをとりあえず放り込んでおくということで、こういった便利な診断名を医師によっては「ゴミ箱診断」と呼んで嫌う人もいます。
体の調子がなにかしら悪ければ、自律神経に必ず不調があるわけで、間違ってはいません。誤診率0%です。
便利ですね。
でも、何にも言ってないのと一緒です。
住所を聞かれて「地球です。」と答えるのと同じような感じです。
人によっては、地球に住んでることを誇りに思ったり、或いは忌み嫌ったり、特別な思い入れがある人もいるかも知れませんが、住所を聞かれたときの答えてとしては、間違ってはいないけど、何も言っていないのと一緒です。
鍼治療は自律神経に効果的なのか?
「おたくの鍼は自律神経に効果がありますか?」と聞かれることもあります。
自律神経は、ちょっとしたことでも変化します。僅かな気温の上昇、湿度の変化、明るさの変化、音、匂い、、などなど。
環境の変化に対応するのが自律神経の役割ですから、正直、何だって変化してしまいます。
ちょっと皮膚を撫でても大きな変化を起こすことが出来ます。
ましてや、鍼を体に入れるなんて行為は、効果がないわけがありません。
自律神経失調症の特効薬
逆に、注意すべきは、「自律神経に効果あり。」と殊更に謳っているものです。
手技であろうが、電気であろうが、サプリや飲料であろうが、自律神経には何だって影響が出ます。
だから、嘘ではありません。
でも、そういったものは、どんな症状に、どう効果があるのか、どのくらい効果がるのか、意図的に曖昧にしているとも考えられます。
ましてや、自律神経失調の危険性を不必要に強調しているものについては、自律神経について理解していないか、あるいは、商業的な意図があると考えざるを得ません。
自律神経失調症への対処法
1,自分で自律神経失調症と判断された方。
自律神経を整えるのは、規則正しい生活と適度な運動です。トライしてみてください。それでも回復しなようでしたら、医療機関の受診をお勧めします。
2,日常生活に支障が出るくらい症状が強く、病院を受診した結果、自律神経失調症と診断された方。
まず、「ガンや白血病、脳の異常など重篤な病気は発見されなかった」ということなので、ひとまず安心しましょう。
不安は症状を悪化させることくらいにしか役立ちません。
良くなるために、冷静な頭で考えましょう。
不安を煽るような情報から距離を置くのも重要です。
医師が自律神経失調症と診断したということは、原因がわからないということです。現代医学は、原因がわからない症状への治療は不得意なところがあります。
病院で処方された薬やリハビリが功を奏さない場合は、我々のような代替医療へのご相談も視野に入ってくると思います。
その際、「自律神経失調症」という情報はほとんど治療の役に立ちません。「なんだか調子が悪いんです」と同じ意味でしか無いからです。
自律神経失調症と診断されていても、症状は人によって様々です。
めまいや頭痛、胃腸症状など、どの症状が最も辛いのか、或いは、不調のはじまりはどの症状だったのかをはっきり伝えて頂くと、あなたの治療計画を作るための助けになります。
自律神経失調症へのアプローチ
当院は、頭痛、めまい、耳鳴り、難聴、しびれ、胃腸症状の治療を得意としています。
自律神経失調症へのメニューは特別設けていませんが、このような症状に苦しみ、病院では自律神経失調症と診断され、さじを投げられた方でも、当院の治療で回復された方も数多くいらっしゃいます。
まとめ
- 自律神経はあなたの生命活動のほとんどに関わる。
- 「自律神経失調症」は意味が広すぎるため、何も言ってないのと同じである。
- 不安を煽るものは、商業的な意図が強い。
- 自律神経失調症が悪化する最大の原因は不安である。
- 実態の無い自律神経失調症という言葉に振り回されないことが重要。
- 冷静に、自分の症状を捉え、適切な治療を選ぶことが早い回復への道である。
自律神経について、あなたが正しく理解することで、言葉に振り回されることなく適切な対処をして頂き、出来るだけ早く健やかな生活を取り戻せることを願っています。
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