なぜ痛みがとれないの?病院で原因不明とされた痛み。それを消すためのスイッチ。
バラバラだけど共通するキーワード
当院を利用される方の症状は多岐に渡ります。
頭痛、首の痛み、肩の痛み、背中の痛み、腰痛、膝痛、腱鞘炎、生理痛、過敏性腸症候群、、、、等々。
一見バラバラのように見えますが、共通するキーワードがあります。
それは痛みです。
なぜ痛いの?
「この痛みの原因は何でしょうか?」「内臓が悪いんでしょうか?」「枕のせいですか?」というような質問をよく受けます。
当院に来られる方は、病院で処方された薬や湿布では痛みがとれず、リハビリや整体、マッサージなどの療法を受けたものの、痛みが改善されなかった方達が大半を占めています。
「なぜ痛みがとれないのか?この痛みは何なの?」という疑問を抱くのは当然だと思います。
痛みのメカニズム
釘を踏んでしまったとき、すぐに足を引っ込めないと、釘が足を貫通して大変なことになります。
あるいは、腕に骨が見えるくらいのケガをしているのに、使い続けたら大変なことになります。
これ以上は大変!!という状況を、体にある特別なセンサー(受容器)が感知すると、危険信号が出され、それを受け取った脳が、これ以上体が無理をしないように、と生み出すのが、科学的に考えられている痛みの正体です。
科学と現実の狭間で
イイ線行ってそうな理屈ですが、現実では、多くの矛盾した例に遭遇します。
例えば、急性の腰痛の炎症は、医学的には半月もすれば完治するはずです。しかし、二ヶ月、三ヶ月経っても痛みがとれないという方がざらにいます。
中には、数年間続く痛みを訴える方もいます。
こういう場合、レントゲンやMRIで検査しても、大半は大きな異常が見つかりません。
ケガや異常をキャッチしたセンサーの反応が、痛みを生み出すはずなのに、痛みに見合ったケガや異常が見つからないのです。
これは決して特殊なケースではありません。
日本人の疾病のうち最も多いとされる腰痛ですが、日本整形外科学会が出している腰痛診療ガイドラインによると、85%の腰痛が画像診断で原因が特定できないとされています。
驚くことに、原因の分かる腰痛の方が特殊なのです。
これは、痛みの科学的な説明と大きく矛盾します。
科学的メカニズム修正版
この矛盾を回避するため、次のような説が考えられました。
神経は何度も同じ信号が続くと、その信号に対する反応が強化され、ちょっとした刺激や、何も刺激がない場合も、信号を送り続けるようになることがある。そのため、長期間、痛みがあると、神経が痛みの信号を脳に送り続けるようになり、痛みが止まなくなる。それが慢性疼痛の原因である。
神経の特性を踏まえた、素晴らしい説です。これで万事解決!だと良いのですが、うまくいかないのが世の中の常です。
神経が痛みの原因ならば、神経を働かなくする、あるいは神経を取ってしまえば痛みはなくなるはずです。
実際、神経ブロックなど、そういった目的で行われる治療があります。
しかし、神経を働かなくしても、神経を取ってしまっても、痛みが消えない場合が頻繁にあるのです。
結局、そういった痛みのメカニズムは、ほとんど解明できておらず、病院では精神的な痛みと処理されてしまうことが少なくありません。
痛みと緊張の不思議な関係
原因不明の痛む箇所を注意深く観察してみると、他の部分と比べて硬くなっていることに気づきます。コリとかシコリのような感じです。
この硬さは、筋肉の緊張が生み出しています。不思議なことに、この緊張を緩めると、かなりの確率で痛みが解消されます。
緊張を緩めると痛みが緩和するという不思議な現象は、肩の痛み、腰痛、ひざ痛などの運動器系の痛みはもちろん、生理痛や便秘、過敏性腸症候群など、内臓系と考えられてきた痛みでも確認されています。
現時点の科学では、無意識の筋緊張や、慢性的な痛みの度合いを測る有効な方法が確立されていないので、この現象が起こる理由は解明されていません。
あくまで仮説ですが、怪我などで痛む箇所があると、体は守ろうとして筋肉を緊張させ、それが長期間になると、緊張がくせになって抜けなくなり、怪我が完治しても痛みを誘発する原因となっているのではないかと、私は考えています。
コリを強く押すのはタブー
痛みの原因である筋肉の緊張を緩めるため、緊張する箇所(コリ)を強く押したり、電気を流したり、鍼をしたくなる所です。
そのような強い刺激を患部に加えると、組織が破壊されて感覚が麻痺するので、緩んだ感じや痛みが薄らいだ感じがしてしまいます。
しかし、強い刺激を受けると、体は攻撃されたと感じてしまうため、麻痺が回復した後は、より強い緊張につながる恐れがあります。
痛みを消すスイッチ
では、どうすれば良いか?
最新の研究で、人間の体には、痛みの原因である筋緊張を緩める、小さなスイッチのようなものがあることがわかってきました。
幸いなことに、スイッチは、痛む箇所と離れたところにあります。
例えば、首の緊張を緩めるスイッチがフクラハギに、便秘中のお腹の緊張を緩めるスイッチが肘にあったりします。
スイッチは、直径数ミリメートルと、とても小さなもので、押すには鍼灸師の使う鍼(直径0.1-0.3mm)のような細いものが適しています。
幸い、スイッチは痛む箇所と離れているので、体の防御反応を誘発し悪化させる危険性を回避することができます。
私たち鍼灸師は、このスイッチのことをツボと呼んでいます。
ツボの研究
ツボは効果は知られていましたが、検証するすべがないので、不可思議なものとして扱われてきました。その結果、ツボの定義も曖昧で、場所も使う人によってまちまち、効果もぼんやりしたものという認識でした。
現在、私の所属する整動協会では、このツボを詳細に分析しています。ミリ単位でツボを検証した結果、ほぼ100%に近い形で、体のどの部分の緊張を緩めるか、把握することに成功しました。
この現象の有効活用のため、現在、北斗病院と共同で、脳科学の分野から、効果の解明に取り組んでいます。
ガンの疼痛緩和
北斗病院で研究の成果が認められ、ガンの疼痛に対する鍼治療の効果の検証も始まりました。そして、良い結果が出ています。
癌の疼痛であっても、筋肉の緊張による痛みが関わっていて、ツボへの鍼刺激で解消される可能性が見えてきました。
未来を見据えて
人間が感じる痛みには、まだまだ未解明な部分があります。病院の治療で最善を尽くしても、解消しないことが多々あります。緊張とスイッチの関係が、この謎を解く大きなカギになると、わたし達は見ています。
鍼灸院の臨床では、毎日のように原因不明の痛みに対して成果が出ています。ただし、鍼灸院は院によって治療方法がバラバラなので、どの鍼灸院でも同じ成果が出るというわけではありません。
わたし達は、鍼治療による鎮痛の効果を科学的に分析し、最も効果がある方法を明らかにしたいと思っています。
そうすれば、その方法を全国の鍼灸院、そして病院で採用できるようになり、痛みに悩む多くの方のお役に立てると考えています。
一鍼灸院だけでは手が届かない沢山の患者さんに、鍼治療がお役に立てる未来を見据えて、力を尽くしていきます。