年末から急増する「膝の裏の痛み」。その原因は〇〇だった!!
急増する膝裏の痛み・違和感
院長の谷地です。
昨年の暮れからある症状を訴える患者さんが妙に増えています。
その症状とは「膝の裏の痛み・違和感」です。
膝痛は、当院の得意とする症状の一つであり、患者さんが来るのは珍しいことではありません。
妙だと言ったのは、今回の膝痛が通常のものとちょっと違う特徴を持っているからです。
急増する膝痛の特徴
特徴の一つとして膝痛の場所が挙げられます。
膝痛の患者さんが訴える痛みの箇所は、「膝の皿の奥」が最も多く、ついで「膝の内側」、その次に「膝の外側」となっています。
今回増えているのは、いつもは少ない「膝の裏」です。
違いの二つ目として、重症度があります。
当院にいらっしゃる膝痛の患者さんは、「膝が痛くて曲げられない」とか、「辛くて歩けない」といった比較的症状が重い方が大半を占めます。
一方、今回増えているのは、「歩くのはできるけど、違和感がある」「座っていると、変な感じがして来る。」「膝の裏を押すと、固いところがあって盛り上がっているのが気になる」「正座がしにくい」といった比較的症状の軽い方です。
さらに、膝痛は比較的年齢が高い方の来院が多いのですが、今回は、若い方もいれば、年配の方もいます。
鍼灸師のお仕事は推理?
子供の頃、金曜ロードショーの「刑事コロンボ」をちょっと背伸びしてみて以来、こういった特徴的な現象があると、理屈を推理して楽しむ変な癖がついてしまいました。
この推理が治療にもつながっていくので、鍼灸師とは楽しい職業です。
まず、手がかりとして、膝の裏の強い緊張について考えます。
西洋医学的な観点から行くと、解剖学的にハムストリングスや腓腹筋などを分析して行くのでしょうが、私が採用している鍼治療の技術である整動鍼の着目ポイントはちょっと違います。
整動鍼とは»特徴 – 活法研究会
整動鍼はまず、動きにフォーカスします。
膝の裏が硬くこわばっているということは、膝が伸ばしにくいはずです。逆に言うと、膝は「伸びたくない=曲げていたい」状態です。
整動鍼では、次に連動性を考えます。
人は体を動かす時、そこの箇所だけに力を入れるのではなく、他の箇所にも無意識に力を入れることでバランスをとっています。
連動性から考える
例えば、立っている状態で右手をまっすぐ上に上げる時、肩や腕の筋肉だけでなく、腰や足首の筋肉も同時に力が入っています。そうしないとバランスが崩れて倒れるからです。
実際、ロボットに腕を上げさせる時、腰や足首の動きもプログラムしてバランスを取らないと、倒れてしまいます。
詳しくはこちらもご覧ください。
≫なかなか治らない四十肩・五十肩。治すヒントはガンダムにあった。
膝の場合、曲げる時に連動する代表的な箇所は腰です。
試しに、まっすぐ立った状態から、腰をピーンと伸ばしたまま膝を曲げてしゃがもうとすると、バランスを取りにくいのがわかると思います。
この時、少し腰を丸めると膝がスムーズに曲がります。
この事から、「膝を伸ばしにくい=膝を曲げていたい」という動きは「腰を曲げていたい=腰を伸ばしたくない」という動きと連動すると考えられます。
整動鍼的膝の裏の治療
では、治療について考えます。
膝の裏に問題があることから、膝の裏に鍼や手技を加えたくなるところですが、問題があるところに原因があることは少ないのです。
そのため、この場合膝の裏やハムストリングスを治療で緩めても、原因が残っているのですぐに再発してしまうことが少なくありません。
また、ただでさえ痛んでいるところです。刺激の量を間違えると、悪化してしまう場合さえあります。
では、真の原因はどこにあるのでしょうか。
それは、連動した箇所です。
今回の場合は、腰に原因があると考えられます。膝が伸びないのは、腰が伸びたくないからと考えます。
この推理の元に、腰を伸ばす時に重要となって来るポイント(ツボ)を探ってみると、患者さんが意識していなかった強い緊張を発見します。
これを見つけたら、後は鍼を一本するだけ。
すぐに膝裏の緊張が取れます。
患者さんに確認してもらっても、はっきりとわかるくらいの変化が出ます。
膝に直接治療したわけではないのに、鍼一本で膝裏の緊張が抜けてしまうので、ほとんどの患者さんは驚きます。
そして、大抵、もう一度丹念に膝裏を探りはじめます。しかし、やはり緊張を見つけられず、何か言いたいけど言えないといった表情で、私を見つめます。
患者さんに申し訳ないのですが、この時の瞬間が嬉しくて、技術を磨いてるところもあります。
なぜ、最近、膝裏の痛みを訴える人が増えているのか
さて、コロンボ流の推理は続きます。
なぜ、最近、膝裏の違和感を訴える人が増えているのか?
「膝と腰を曲げていたい。」
この格好、実は最近よく目にするようになっています。
私の住む札幌は、昨年の12月より歴史的な大雪にみまわれ、気温も低い日が続いています。そのため、道路は雪や氷でツルツルです。
ツルツルの地面を歩くのにはコツがあります。
姿勢良く、腰と膝をまっすぐにして歩くと、踏み出した足はカカトから着地します。ツルツルの雪道で、この歩き方をすると間違いなく転びます。
一方、踏み出した足のつま先側に重心のバランスを移して着地すると、転びにくくなります。このとき、つま先側で着地するために自然と体は前傾姿勢になり、結果、腰と膝が曲がります。
北海道民は、雪が降ると自然とこの歩きかたにシフトチェンジします。だから、雪道でも安全に歩けるのです。東京で雪が降ると転んでけが人が出るのは、このシフトチェンジが出来ないからです。
今年は、道路のツルツルになる時期が例年よりも1ヶ月以上早い感じです。予期せぬシフトチェンジに慣れるまで、体に余計な力みが入り、腰の緊張が取れなくなって、膝裏の痛みや違和感へつながっているのではないかと推理をまとめました。
自宅でできる予防と注意点
簡単なセルフケアとして、歩き方の工夫をオススメします。
地面がツルツルの所で腰・膝が曲がってしまうのは避けられませんが、そうではないところ、家の中や雪のない道を歩く際は、腰を伸ばして姿勢良く、カカトから着地する歩行をしてみましょう。
その際、腰の硬い部分を探して、抑えながら歩くとより効果的です。
注意点は、押しすぎないこと。押しすぎるとかえって緊張が増し、症状が悪化する恐れがあります。「痛い・痛気持ちよい」と感じるようだと強すぎです。押すことよりも、その一点が動かないように抑えることを優先してください。
詳しくはこちらも参照ください
≫揉むほど悪くなる?本当は怖い「肩こり」の危険なマッサージとは
同じ理由で、膝裏を押したり、揉んだりするのは控えてください。気持ちよい感じがしますが、組織が壊れているので気持ちよく感じているのです。悪化や、他の症状を引き起こす要因となりますので注意が必要です。
整動鍼使いの事件簿
整動鍼を使う鍼灸師の推理、いかがでしたでしょうか。
整動鍼を使う鍼灸師は、痛いところに鍼を打つという治療はしません。痛みを引き起こす原因を解消することに力を注ぎますので、そういった意味では、探偵や刑事に近い頭の使い方が必要とされます。
私も名探偵、名刑事を目指して日々奮闘中です。
現在の課題として、刑事コロンボのように「うちのかみさんがね〜」と妻をかみさんと呼びたいと思ってるんですが、なかなか勇気がありません。